研究概要 |
肺胞II型細胞を異なった条件下で培養し、その過程でのII型上皮およびI型上皮のマーカー蛋白とヘパラン硫酸-N-硫酸転移酵素(NDST)とのmRNA発現の変化について検討した。プラスチック上での培養ではII型上皮細胞のマーカーであるSP-AmRNAは急速に消失し、I型細胞のマーカーであるT1αが強く発現した。EHSゲル上での培養ではT1aの発現はなく、SP-AmRNAの発現が保たれた。NDSTmRNAの発現はII型上皮から型様上皮への転換に伴って上昇したが、細胞密度に依存し細胞伸展が制限される高密度では発現が抑制された。高密度培養でのこの酵素の低発現が細胞間接着によるか否かを検討するため、Ca除去、オクタノール処理、calyculin処理など細胞間接着阻害を行ったが、本酵素は誘導されなかった。TPA,cyclicAMP,PKAおよびPKC阻害剤、チロシン燐酸化阻害剤genisteinは影響がなかったが、herbimycinA(HM)が、顕著に本酵素の発現を誘導した。この作用はプロテアゾーム(PS)阻害剤で拮抗され、PS感受性の誘導抑制因子が発現制御に関与すると推定された。一方、低密度培養で誘導されるNDSTの発現は、PS阻害剤では抑制されず、PS以外の機序でこの誘導阻害因子が除去されると推定された。HMあるいは低密度培養で誘導されるNDSTは、共にリチウムにより阻害され、同時に細胞伸展が顕著に阻止された。低密度培養では、伸展する細胞周辺のアクチン束と同一部位あるいはさらにその外側の細胞辺縁にベータカテニンが存在し、mRNAの増加や蛋白レベルで細胞の不溶性分画に顕著な増加があり、またこの誘導阻害因子がPS感受性で、かつリチウムにより誘導される可能性のあることから、これが細胞伸展とNDST発現に関与していると推定された。本酵素のN末端のrecombinant蛋白に対する抗体では、invitroでの細胞伸展の阻害は見られなかったが、in vivoでは肺傷害を持つラット肺で、II型上皮細胞に一致して本酵素の発現上昇が認められた。
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