肺胞II型上皮細胞におけるヘパラン硫酸-N-硫酸転移酵素(NDSD)の発現の変化についてin vitroおよびin vivoで検討した。in vitroの培養では、NDSTmRNAの発現は細胞密度、基質に依存し、SP-AmRNAを発現するII型上皮からT1αが強く発現するI型様上皮への転換に伴って上昇し、細胞伸展とその発現が正相関した。この酵素に対する抗体は、妊娠16日目の胎生期の肺では上皮細胞が軽度の反応を示したが、それ以降の肺では、反応は認められなかった。成獣では肺胞II型上皮細胞が極く僅かであるが反応した。肺傷害においては、傷害後2日目には、病巣を直接被覆する多数の上皮細胞と間質内に侵入した上皮細胞は異形化を示し細胞増殖が顕著であった。これらの上皮にはMT2-MMPおよびMT1-MMPの発現が上昇した。7及び14日目の線維化の始まった病巣にも多数のII型上皮細胞が侵入していた。NDSTの発現は傷害2日目から傷害部を被覆する上皮に顕著にみられ、14日に至るまで新生肺胞上皮の一部に発現がみられた。in vitroでの解析から、ハービマイシンAが、顕著に本酵素の発現を誘導し、この作用はプロテアゾーム(PS)阻害剤で拮抗された。リチウムはNDSTの発現と細胞伸展を顕著に阻止した。細胞伸展はクロレートでも阻害された。伸展する細胞では、ベータカテニンのmRNAや蛋白レベルで細胞の不溶性分画に顕著な増加があり、細胞辺縁のアクチン束と同一部位、さらにその外側に局在した。以上の結果から、NDSTは胎児肺形成よりも肺傷害の治癒過程で発現し、II型肺胞上皮が遊走、増殖し、傷害部位に侵入して肺胞を新生し、II型細胞がI型上皮細胞に移行するときの細胞伸展に関与し、NDSTの誘導抑制因子はPS感受性で、かつリチウムにより誘導されることから、ベータカテニンもその一つである可能性が示唆された。
|