正常PrPの機能については、未だ、明らかではないが、PrP遺伝子欠損マウスを作成し、PrPがPurkinje細胞の長期生存維持に関与している可能性を報告してきた。今回、我々は、PrP遺伝子欠損マウスにはalternative splicingにより生じたmRNAが過剰発現していることを見つけ、塩基配列を決定してみるとPrP類似のタンパクをコードする新たな遺伝子(Dopple/PrPLP遺伝子)であることがわかった。この遺伝子は、正常成人マウス脳には発現が認められないが、睾丸や心臓には強く発現していた。しかし、脳でも生後6日目をピークとした発現が見られ、免疫組織化学法とin situ hybridization法とで発現細胞を同定してみると、脳血管内皮細胞に発現していることがわかった。一方、睾丸では、生後2週目までは、将来的にはリンパ管に分化していく間葉細胞に発現しているが、生後3週目からは、spermatogenic cycleの第IV〜VI日目のセルトリ細胞に強く発現するようになる。PrPもDopple/PrPLP同様、弱いながら血管内皮細胞やセルトリ細胞に発現していた。PrP(106-126)の神経細胞障害が、神経細胞への直接的な影響によるものに加えて、血管内皮細胞の障害を介した影響の可能性も考えられ、発現時期や精巣を含めた発現部位などを総合的に考え合わせると、PrPやDopple/PrPLPは、blood-barin-barrierやblood-testis-borrierの形成や機能に関わっている可能性が示唆される。今後は、こうした機能について検討していく。
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