研究概要 |
我々は、成熟ラット肝臓より肝幹細胞の一種と考えられる小型肝細胞を分離培養し、増殖と成熟肝細胞への分化を調節する方法を見いだした。小型肝細胞は増殖しコロニーを形成し、非実質細胞、特に星細胞の分泌する細胞外基質が小型肝細胞の周りに蓄積することによって成熟化し、3次元的な類肝組織を形成する。小型肝細胞のコロニーはsubcultureすると非実質細胞の増殖が抑制され、増殖が促進される。その小型肝細胞に基底膜成分からなる細胞外基質(Matrigel)を投与すると成熟化が誘導される。細胞外基質は基底膜様構造を形成していることが必要で、type IV collagen, lamininなど個別の投与では、組織構築を誘導することができなかった。分化誘導を受けた小型肝細胞は、培養後、数週間経過しているにも関わらず成熟肝細胞が豊富に発現している転写因子のHMF4,HNF6,C/EBPalphaなどを強く発現するようになり、それら転写因子によって発現調節されているアルブミン、トランスフェリンばかりではなく、尿素合成に必要なcarbamoylphosphate synthetase Iやアンモニア代謝に必要なglutamine synthetaseが発現するようになり、薬物代謝のcytochrおme P450の誘導がかかるようになる。この結果は、成熟化した小型肝細胞が生体内の肝細胞と同等な機能を発揮できるということである。 小型肝細胞はコロニーの状態での長期間の凍結保存(液体窒素を使うことなく-80℃で良い)が可能で、最長90週凍結保存した小型肝細胞を増殖させることに成功した。平均60%の生着率や、生着した小型肝細胞は増殖する。2週間でコロニーの面積にして約7倍に、アルブミンの産生は約5倍になる。凍結保存した小型肝細胞も成熟化を誘導することが可能で、subcultureした場合とほぼ同様の結果を得ている。また、小型肝細胞のコロニーを、コラーゲンからなるscaffoldの中で培養すると成熟化が誘導され、非実質細胞は胆管形成や毛細血管の形成を行うようになった。現在、このscaffoldで組織構築した類肝組織をヌードマウスやラットに移植する実験を継続して行実施し、生体内での組織化の検討を行っている。
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