研究概要 |
本研究では我々は初期肺癌を材料として、ディファレンシャルスクリーニングを用いることにより、肺腺癌の発生、進展に関わる未知の機能分子を同定することを試みた。その理由は、末梢の肺癌に対して胸腔鏡手術が可能となり、以前に比較して末梢型肺腺癌の初期病変(径2cm以下)の材料が得やすくなってきたためである。最初に我々は40例の微小肺腫瘍病変(径2cm以下)およびその対照正常組織を集め、詳細な病理組織学的解析を行った。その結果、これらの微小病変にはBACから明らかなinvasive adenocarcinomaまで含んでおり、FDD(Fluorescent Differential Display)法の対象として適当と判断した。あらかじめ保存しておいた上記病変部及び対照部の新鮮凍結材料から全RNAを抽出し、蛍光(Rhodamine)ラベルしたoligod(T)リバースプライマー(9種類)を用いて逆転写した後、フォワードプライマー(24種類)を組み合わせて、のべ216通りのPCRを行った。反応産物の一部をDNAシークエンス用電気泳動装置を用いて分離し、蛍光バイオイメージアナライザー(FMBIO-II Multi-View)上で腫瘍特異的に発現が増加/減少しているバンドを同定を試みた。これらのバンドよりDNAを分離、回収し、PCRダイレクトシークエンスにて遺伝子配列を決定した。結果的に上記FDD法を行った第一段階までで323個の候補遺伝子のcDNA断片が選別された。さらにこれらの遺伝子断片のダイレクトシークエンスを行った結果255個の遺伝子断片において遺伝子配列を同定した。得られたクローンは末端にPoly(A)^+tailを持つものが163個、持たないものが92個であった。現在、これらのクローンについて遺伝子データベース上でBlast検索を行っている。既知の遺伝子と比較・検討することにより候補遺伝子断片の絞り込みが終了し次第、プラスミドにクローニングして、ノーザンブロット,RT-PCRを行う予定である。また本研究を遂行する過程でいくつかの遺伝子について微少(初期)肺腺癌を含む非小細胞肺癌における発現との関連を検討した。その結果、非小細胞肺癌の症例でIL-10の発現と臨床的予後に関係があることを見出した。さらにIL-10の発現はAng-1,Ang-2,Angiopoietin Receptor(Tie-2)の発現と相関することを明らかにした。
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