研究概要 |
本年度は初期(微少)肺腺癌の増殖・進展・転移にインターロイキン10(IL-10)遺伝子の発現がどのように関わっているについて検討を加えた。我々は前年度の研究を遂行する傍ら、各種インターロイキン遺伝子について微少(初期)肺腺癌を含む非小細胞肺癌(NSCLC)における発現との関連を検討した。その結果、非小細胞肺癌の症例でIL-10の発現と臨床的予後に関係があることを見出した。さらにIL-10の発現は血管新生刺激(抑制)因子の中でも特にAng-1,Ang-2,Angiopoietin Receptor(Tie-2)の発現と相関することを明らかにした。 材料は当院におけるヒト非小細胞肺癌手術症例95例(腺癌56例、扁平上皮癌32例、大細胞癌5例、腺扁平上皮癌2例)を対象とした。腫瘍材料は手術採取されたものを直ちに凍結し、-80℃で保存した後、使用時に可溶化して全RNAを抽出した。IL-10,IL-10Receptor,ならびに各種血管新生刺激(抑制)因子の遺伝子発現はRT-PCR法により解析した。対象とした因子としてはAngiopoietin-1,angiopoietin-2,Tie-2,KDR, flt-1,VEGF, TSP-1,TSP-2,BAI-1遺伝子である。IL-10発現とこれらの遺伝子発現との相関はFishers exact testにて統計学的有意差検定を行った。またこれらの症例について免疫染色を行い血管密度を測定した。非小細胞肺癌症例においてIL-10及びIL-10Receptor遺伝子の発現は上記の血管新生因子のうちAng-1,Ang-2,Tie-2の発現と有意に関連していた。IL-10陽性非小細胞肺癌症例はIL-10陰性症例に比較して血管密度が高かった。IL-10陽性非小細胞肺癌症例の予後は陰性例に比較して不良であることが示唆された。これは腫瘍組織における血管増生の亢進で説明されるものと考えられた。さらに非小細胞肺癌症例における血管増生の亢進はAngiopoietin系に関連することも示唆された。
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