本研究は、リボザイム(RNA酵素)を用いてras癌遺伝子発現を特異的に抑制することにより、細胞レベルおよびin vivo腫瘍組織レベルでのras癌遺伝子の機能を明らかにするものであり、以下の実績が得られた。 活性型K-ras遺伝子mRNAを標的とするリボザイム(anti-K-ras Rz)を作成し、活性型遺伝子を有するヒト膵癌Capan-1細胞に遺伝子導入したところ、K-ras発現の特異的抑制がみられ、増殖速度も52%と遅延した。Anti-K-ras RzをアデノウイルスベクターによりCapan-11膵癌細胞に感染導入したところ、活性型K-ras遺伝子発現抑制に続き、bc1-2発現の著明な減弱、細胞のアポトーシス亢進と増殖抑制が確認された。リボザイムによるK-ras発現抑制がbcl-2発現減弱を介してアポトーシスを誘導したと考えられた。in vivoでCapan-1膵癌腫瘍マウス異種移植系にアデノウイルスでanti-K-ras Rzを感染導入したところ、リボザイム導入腫瘍では、35%(7/20)の腫瘍が完全に消失した。この結果は、in vivoでも活性型rasによるアポトーシス抑制効果が、癌細胞の腫瘍性増殖に関わっていることを始めて明らかにした。 活性型ras遺伝子を有するヒト大腸癌SW480細胞にanti-K-ras Rzを遺伝子導入したところ、アポトーシス亢進と分裂期細胞数の減少に加えて、VEGFの発現の低下(90%低下)とthrombospondin-1の発現亢進(80%増加)とが認められた。リボザイム導入SW480腫瘍は、腫瘍生着率が20%と低下し、生着腫瘍の増殖津度も28%と遅延した。活性型rasは、癌微小環境における血管新生関連因子の発現調節を介して血管新生を亢進させ、個体内での腫瘍生着や増殖にも関与していることが示された。
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