研究概要 |
染色体バンド11q23に切断点をもつ染色体転座は造血器腫瘍の各種の白血病に観察されることから血液細胞の分化・増殖に関与する遺伝子が局在していると考えられている。11q23はとりわけ1歳以下の乳児白血病における染色体転座の主な切断点の一つである。11q23転座を持つ白血病は一般的に予後が悪いとされており、その病態の究明が急務である。我々は、1992年、これら11q23転座の責任遺伝子としてMLL遺伝子を単離した(Cancer Res 1992)。分子生物学的解析からMLL遺伝子は転座によって一定の領域で切断され、転座のパートナー遺伝子と融合しキメラ蛋白を作ることによりMLL蛋白の本来の機能がdominant negativeに不活化され、癌化に関わっていることを証明した(Oncogene 1994)。さらにt(11;19)のキメラ遺伝子の切断点領域に対するアンチセンスを作成し、t(11;19)転座を有する細胞株に導入した結果、アポトーシスが誘導された(Cancer Res 1998)。このような事実からキメラ蛋白が発癌に直接関与していることが示唆された。この研究では、キメラ蛋白の細胞死伝達経路との関係、さらに予後または薬剤耐性との関連を追求した。生後10か月の乳児白血病細胞(急性単球性白血病)にみられたt(6:11)(q27;q23)転座の解析では、第6番側にAF6を同定し、正当なキメラMLL遺伝子であるMLL exon 6/AF6(染色体6q27)以外にMLL遺伝子のexon 6がスプライスアウトされたvariant MLL exon 5/AF6遺伝子が存在することが明らかになった。このバリアントMLL exon 5/AF6は臨床経過から薬剤耐性と関連し、キメラMLL遺伝子バリアントの発現量と薬剤耐性又は予後との間に関連が示された(Genes Chromo & Cancer 2000)。しかし、このバリアントMLL exon 5/AF6遺伝子の産物を検出できなかった。近年、亜ヒ酸がレチノイン酸抵抗性の急性前骨髄球性白血病に著効することが報告されていることから、11q23転座を有するB細胞白血病細胞3株に低濃度の亜ヒ酸を暴露した、結果、すべての細胞株で細胞増殖抑制が観察され、アポトーシスが誘導された。アポトーシス誘導はMLLキメラ蛋白の減少と相関しており、MLLキメラ蛋白とアポトーシスとの関連が示唆された(Leukemia and Lymphoma,2000)。このようにMLLキメラ蛋白の多様性が細胞増殖のみならず、細胞死、薬剤耐性にも関与していることが明らかになった。
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