AOM誘発大腸発がんモデルを用い、大腸がん及び前がん病変におけるβ-カテニン経路の異常及び炎症関連酵素の発現を調べ、これらの因子の発がん過程における役割及び相互の関連性を検討した。また、培養細胞系を用いてβ-カテニンとK-rasの炎症関連酵素発現への関与や他のがん関連遺伝子産物発現への影響を検討した。 1.AOM誘発ラット大腸発がん系では、異型を伴うACFの段階から、β-カテニン遺伝子の変異が高頻度に検出され、β-カテニンの細胞内局在変化は、腫瘍では全例で認められた。一方、K-ras遺伝子の変異は過形成性ACFで高頻度に検出され、K-rasの活性化がACFの形成に関与していることが示唆された。腫瘍におけるK-ras遺伝子の変異頻度は、大きい腫瘍では比較的高かったが、小さい腫瘍では低く、K-ras遺伝子の活性化は腫瘍の増殖にも関与していると考えられた。 AOM誘発マウス大腸がんでは、β-カテニン遺伝子変異は10例中全例に、K-ras遣伝子変異は1例に検出された。β-カテニン経路の異常は腫瘍化に必須であるが、K-ras遣伝子の変異は必須ではないと考えられた。 2.AOM誘発ラット大腸発がん系では、iNOSの上皮細胞での発現は、異型を伴うACFの段階から認められ、β-カテニンの異常と同様、腫瘍化におけるごく初期から起きることがわかった。iNOSは高分化型の腺管構造を呈する腫瘍細胞の内腔側細胞膜近傍に局在していた。COX-2の上皮細胞における発現はACF及び腺腫では認められなかった。がん組織では間質細胞でのCOX-2の発現が増加し、更に、高分化型の腺管構造を呈するがん細胞の細胞質においても発現が認められた。 3.K-ras遣伝子の変異がIL-1βやLPS刺激存在下でiNOSの発現を誘導し、発がんに重要な役割を果している可能性が示唆された。
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