我が国において大腸がんは、食生活の欧米化に伴い増加傾向にあり、その発がん機構の解明及び発がん抑制研究は極めて重要である。大腸発がんと脂肪摂取には強い正の相関関係があり、脂肪のなかでもアラキドン酸代謝は、大腸発がんに密接に関与している。アラキドン酸の代謝産物であるプロスタノイドは、組織のレセプターを介してその生理的な機能を発現している。この研究では、大腸発がんにどのプロスタノイドレセプターが関与しているかを検索する目的で、大腸発がん物質であるアゾオキシメタン(AOM)をプロスタノイドレセプターのノックアウトマウスに投与して、誘発される大腸の前癌病変であるaberrant crypt foci(ACF)の数を野生型マウスと比較した。現在、アラキドン酸からシクロオキシゲナーゼを介して5種類のプロスタノイド(PGE2、PGD2、PGF2、PGI2、TxA2)が生成されることが知られており、そのレセプターは、PGE2のみ4種類(EP1〜4)あり、それ以外は1種類ずつ存在し、計8種類知られている。今回は、すべてのレセプターノックアウトマウスとその野生型マウスにAOMを投与し、得られたACF数を比較した。ノックアウトマウスで、野正型に比較してACF数が減少していたのは、PGE2のレセプターであるEP1とEP4であった。それぞれ、36%と44%ACFが減少していた。そしてこのことは、それぞれのレセプター特異的拮抗剤を用いて、大腸ACFが減少することを確認した。この実験結果から、大腸発がんにプロスタノイドの内PGE2が関与しており、シグナル伝達系としては、レセプターEP1とEP4が関与していることが明かとなった。また、雄F344ラットにAOMで誘発した大腸発がんをPGE2が明らかに促進することも証明された。
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