旋毛虫の食道腺より分泌される蛋白は宿主の筋肉細胞の変異など種々の生理活性作用を有していると考えられる。我々はそれら蛋白の機能解明のために数種の旋毛虫からcDNAライブラリーを作成した。今年度についてはこれらライブラリーより以下の3種のクローンを選択し、それらから発現させた蛋白の性状について検討した。 T.spiralisのcDNAライブラリーよりクローニングしたクローンは分子量が約42kDaで、他の蠕虫のセリンプロティナーゼインヒビターとのアミノ酸のホモロジーは約30%であった。しかし、大腸菌による発現蛋白は強いプロティナーゼ阻害活性を有し、セリンプロティナーゼインヒビターの一種と考えられた。ウエスタンブロッティングおよびRT-PCR解析によると、この蛋白は感染後18日程度までの筋肉幼虫、すなわち幼虫の筋肉移行時までに主に発現され、筋肉への体内移行に重要な役割を担っているものと考えられた。 T.pseudospiralisのcDNAライブラリーより分子量が約21kDa、28kDaの二種類の蛋白をクローニングした。28kDaの蛋白はアミノ酸のデータベース検索を行った結果、新規の蛋白である可能性が高いと思われた。両蛋白ともに旋毛虫の筋肉幼虫の食道腺に限局して存在し、ウエスタンブロッティング解析などから旋毛虫の分泌・排出蛋白と確認された。また、これらの蛋白は感染後一ヶ月程度経過した旋毛虫のシスト形成以後に主に発現され、シストの形成、維持、また筋肉細胞の変異に大きな役割を担っているものと考えられた。
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