旋毛虫(Trichiella)が産生する各種の蛋白は旋毛虫の宿主内への侵入および生存・維持に大きく関与しているものと考えられている。我々はすでに筋肉幼虫からセリンプロテアーゼインヒビター遺伝子をクローニングし、融合蛋白の合成を行い、医薬への応用研究を本格化させようとしている。一方、旋毛虫の新生幼虫は組織貫通能に優れているため、プロテアーゼ等の蛋白を産生している可能性が高いと思われる。よって、当研究では筋肉幼虫だけでなく、新生幼虫のcDNAライブラリーからも新たな生理活性物質の検索を行った。また、旋毛虫感染に伴うMyoD、myogeninなどのマウス筋肉分化関連遺伝子発現の動態、並びに旋毛虫が分泌するマクロファージ遊走抑制因子などの各種の蛋白の発現についても検討を行った。 旋毛虫(T.spiralisおよびT.pseudospiralis)の新生幼虫、筋肉幼虫よりcDNAライブラリーを作製して、有用なクローンの検索を行った。その結果、T.pseudospiralisのライブラリーから新規な蛋白をクローニングした。この蛋白は主に筋肉幼虫時に発現し、宿主の筋肉細胞の変異に関与している可能性が示唆された。T.spiralisからはセリンプロテアーゼ、ミオシン、トロポミオシンをクローニングした。次に、大腸菌によって合成した組替えセリンプロテアーゼ蛋白の活性について検討を行った結果、特異的なプロテアーゼ活性が認められた。すなわち、各種のセリンプロテアーゼ基質を用いた実験から当プロテアーゼはプラスミン作用を主体とするプロテアーゼであることが示唆された。一方、マウスのMyoD、myogenin遺伝子は旋毛虫感染によるシスト形成の初期に多く発現された。また、旋毛虫の発育ステージにより、旋毛虫が分泌するマクロファージ遊走抑制因子などの各種の蛋白の発現量は大きく異なっていた。 今後はより有用なクローンの検索を続けるとともに、セリンプロテアーゼインヒビター、、セリンプロテアーゼ、また宿主の筋肉細胞の変異に関与するクローンを昆虫細胞で発現させ、より詳細な活性の検討を行う予定である。
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