生殖母体形成機構に関する細胞生物学的検討を実施し、以下の結果を得た。 1)野生分離株による生殖母体形成の誘導 ミャンマーおよびインドネシアから採集された熱帯熱マラリア原虫の野生分離株を用いて検討した。感染赤血球が人工培養下で約5%に達した折に、培養赤血球濃度を3-4倍に高めることにより、幼弱生殖母体の形成誘導に成功した。2週間に渡り人工培養を継続した結果、幼弱生殖母体はほぼ成熟した生殖母体に発育した。 2)栄養飢餓による生殖母体の形成誘導機構 培養赤血球濃度を高めることにより生殖母体の形成誘導に成功したことから、栄養飢餓が重要な誘導因子と考えられた。そこで、培養赤血球濃度を高める際にグルコース添加培地で培養した結果、形成誘導は認められず、グルコース欠乏による栄養飢餓が誘導因子となっていることが示唆された。得られた野生分離株は全て生殖母体形成能を有しており、生殖母体への転換率は野生分離株により異なっていたが、常に50〜70%に達した。 3)人工培養確立株の生殖母体形成 世界中で多くの人工培養確立株が研究に利用されているが、これらの株は長期に渡り人工培養されており、生殖母体形成能は失われていることが知られている。FCR-3およびK-1株を用いて上記と同じ誘導を試みたが、生殖母体は全く形成されず、生殖母体形成能が消失しているものと思われた。
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