生殖母体形成機構に関する分子・細胞生物学的検討を実施し、以下の結果を得た。 1)栄養飢餓による誘導 培養赤血球濃度を3-4倍に高めることにより生殖母体の形成誘導に成功し、同様の方法でグルコースを添加した培地では生殖母体が形成されなかったことから、グルコース欠乏による栄養飢餓が重要な誘導因子と考えられた。そこで、グルコース代謝拮抗剤の2-deoxyglucoseを添加し通常の赤血球濃度(5%)で培養した所、寄生率の減少が顕著であったが生殖母体形成が観察され、グルコース欠乏による栄養飢餓が誘導因子となっていることが明らかとなった。 2)抗生物質の影響 マラリア原虫の培養には、一般的にはゲンタマイシンが使用されるが、ゲンタマイシンとともにカナマイシンを添加すると生殖母体形成は激減した。カナマイシンによる抑制は濃度依存的であり、今後は、カナマイシンの作用機序についても検討したい。 3)生殖母体形成を誘導するマスター制御遺伝子の検索 酵母における有性世代の誘導は、栄養飢餓によりcAMP依存性キナーゼが活性化されて誘導され、この酵素がマスター制御遺伝子として働きいていることが知られている。熱帯熱マラリア原虫の生殖母体形成も栄養飢餓で誘導されることから、酵母に見られる機構と同様な誘導機構によるものと示唆された。そこで、培養赤血球濃度を高めて生殖母体形成を誘導した原虫ならびに通常の赤血球濃度で培養した原虫からmRNAを抽出し、サブトラクション法を用いて生殖母体形成を誘導する遺伝子の検索を行った。しかし、得られたクローンは全てヒートショック遺伝子のみで、期待していたcAMP依存性キナーゼは検出できなかった。
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