熱帯熱マラリア原虫の野性株を用いて、生殖母体形成機構に関する分子・細胞生物学的検討を実施し、以下の結果を得た。 1.野生分離株における生殖母体形成の誘導:ミャンマーおよびインドネシアから採集された熱帯熱マラリア原虫の野生分離株を用いて生殖母体形成について検討した。感染赤血球が人工培養下で約5%に達した折に、培養赤血球濃度を3-4倍に高めることにより、幼弱生殖母体の形成誘導に成功した。人工培養に適応した野生分離株は、全て生殖母体形成能を有しており、生色母体転換率は常に50〜70%に達した。 2.栄養飢餓による誘導:培養赤血球濃度を高めることにより生殖母体の形成誘導に成功したことから、栄養飢餓が重要な誘導因子と考えられた。事実、培養赤血球濃度を高める際にグルコース添加培地で培養した結果、形成誘導は認められなかった。次いで、グルコース代謝拮抗剤の2-deoxy glucoseを添加し正常の赤血球濃度で培養した結果、寄生率の減少が顕著であったが生殖母体形成が観察された。これらの結果は、グルコース欠乏による栄養飢餓が誘導因子となっていることを示唆している。 3.人工培養確立株の生殖母体形成:人工培養確立株であるFCR-3およびK-1株を用いて上記と同じ誘導を試みたが、生殖母体は全く形成されず、生殖母体形成に関与する重要な遺伝子が欠損しているものと思われた。 4.生殖母体形成を誘導するマスター遺伝子の検索:生殖母体形成を誘導した原虫と誘導をかけていない原虫からmRNAを抽出し、サブトラクト法を用いて生殖母体形成を誘導するマスター制御遺伝子の検索を行った。しかし、得られたクローンは全てヒートショック遺伝子のみで、期待していたcAMP依存性キナーゼなどの遺伝子は検出できなかった。
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