不活化スポロゾイトで繰り返し免疫したマウス血清中にMSP1抗原特異的な抗体が含まれることから、肝細胞期マラリアでもMSP1抗原が免疫原性をもつ形で発現されることが示された。そこで、マラリア原虫Plasmodium yoeliiのMSP1抗原とマウス熱ショック蛋白70(heat shock protein 70:hsp70)とのリコンビナント融合蛋白MSP1/hsp70を大腸菌に発現させて精製し、マウスに免疫して防御免疫の成立機構を解析した。hsp70はCD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞を共に抗原特異的に活性化することができる自然のアジュバントであり、他にアジュバントは一切用いなかった。 免疫群では、スポロゾイト感染後肝細胞内原虫由来RNA量が低下したこと(RT-PCR法により測定)、また赤血球型原虫の出現数が著名に減少したことから、肝細胞期において防御効果が現れていることが強く示唆された。また、免疫群は赤内型原虫を感染させた場合にも抵抗性を示し原虫血症の消滅に至ったことから、このワクチンは肝内型と赤内型両者に有効であることが示された。現在防御免疫のエフェクター機構について研究を進めている。肝細胞期に対する免疫の防御効果については、血清中の抗MSP1抗体量との間には明らかな相関は認めなかったが、MSP1特異的インターフェロンγ産生能との相関がみられた。免疫により誘導されるこの特異的インターフェロンγ産生細胞は主としてCD4細胞であり、この免疫法においては肝細胞期に有効な防御免疫の担い手はCD4陽性細胞である可能性が示唆された。 免疫群の感染抵抗性にはマウス系間で著名な差が認められた。C57BL/6は抵抗性であるかBALB/cマウスは感受性である。このような遺伝的バックグランドの影響についても現在解析を進めている。
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