研究概要 |
サイトカインによるムシン産生の調節についてヒト大腸がん細胞株LS174Tを用いて検討した。ムシン産生の程度はムシンコアタンパク質MUC2のmRNAのレベルと分泌されたムシンの測定で検討した。定量PCR装置(ライトサイクラー)を用いたRT-PCRにより,MUC2mRNAを定量する条件を設定した。定量PCR装置ではアガロースゲル電気泳動による方法よりもmRNAの定量は信頼できるものと考えられる。LS174T細胞をヒトIL-4,IL-13,TNF-αと3日間培養すると,いずれもMUC2のmRNAが2〜3倍増加した。しかし,LS174T細胞数はサイトカイン無しのものと違いはなかった。したがって,サイトカインによりLS174T細胞数の増加なしにムシン産生が亢進するものと考えられる。IL-4とIL-13を同時に添加してもムシン産生に相乗効果は見られなかった。また,市販のMUC2コアタンパク質に対する抗体(PharMingen,35681A)を用い,ブロッティングによりムシンを検出できることが分かった。抗MUC2抗体の使用により,これまでのレクチンを用いたブロッティングよりも安定した定量が可能である。LS174TをIL-4またはIL-13で刺激することにより,ともにSTAT6の活性化が起きることが確認された。しかし,TNF-αでは,STAT6の活性化は起きなかった。また,ヒトMAPKのERK1について調べたところ,IL-13では活性化が見られたが,IL-4ではERK1の活性化は見られなかった。IL-13とIL-4はB細胞に対するクラススイッチングや単球に対する抗炎症作用など共通な生理活性を持つことが知られている。今回の結果は,IL-4とIL-13の生理活性の違いを考える上で興味深いものであり,今後さらに検討が必要である。LS174TをIL-13で刺激する時にERKの阻害剤であるU0126を加えると,MUC2mRNAの増加が抑えられる傾向があった。LS174T細胞からのムシン分泌は,IL-13,IL-4によるJAK-STAT系の活性化と,TNF-αによる活性化の経路があるものと予想される。なおかつ,IL-13とIL-4のシグナルもERK1の関与に関して異なった経路を用いる可能性が示唆された。
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