赤痢アメーバに感染していながら症状を呈さない無症候性嚢子排出者は、有症者ほど高い抗体価を示さないものの、赤痢アメーバの腸粘膜への侵襲を防御できる抗体を保有している可能性が高い。そこで、無症候性嚢子排出者の末梢リンパ球由来の抗体遺伝子ライブラリーを構築し、抗赤痢アメーバヒトモノクローナル抗体Fab断片の作製を行った。昨年度は、クローニングできたCP33と、CP33のH鎖に無症候性嚢子排出者由来の別のL鎖を組み合わせた2つのクローンが、赤痢アメーバの260-kDaレクチンに高い反応性を示すことを確認した。今年度は、CP33のH鎖を肝膿瘍患者由来のL鎖遺伝子ライブラリーと組み合わせて再スクリーニングし、新たに1クローンを作製した。これら4クローンが認識している抗原について解析したところ、260-kDレクチンを構成する2つのサブユニットのうち、いずれも170-kDa heavy subunitのcysteine-rich domainを認識していることが明らかになった。そして、これらの抗体で赤痢アメーバ栄養型虫体を前処理してCHO細胞と反応させたところ、接着が有意に抑制された。同様にこれらの抗体で前処理した虫体では赤血球貪食能が有意に抑制された。このように、抗体価が低い無症候性嚢子排出者の僅かな末梢血液からでも、接着中和活性のあるヒト抗体を効率よく作製することができた。また、このようなヒト抗体をアメーバ症の診断にも応用するため、H鎖遺伝子のクローニング部位の下流にアルカリフォスファターゼ遺伝子を組み込んだベクターを構築し、抗体をアルカリフォスファターゼとの融合蛋白質として産生させることを検討した。その結果、酵素活性を保持した状態で融合蛋白質を精製することができた。組換え型抗体として産生させることで、簡便に均質な標識ヒト抗体の調製が可能になると考えられた。
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