本研究の目的は、ピロリ菌がどんな刺激に反応して、ライフサイクルの1形態である球状化へ至るのかを明らかにすることである。平成13年度に明らかにしたことを以下に要約する。 1)菌の球状化促進因子(CF)と球状化阻害因子(CI) 前年度の結果より、菌を培養した培地中にCFが蓄積する可能性が示唆された。ところが、CFの性状を検討するに従い、菌の球状化を阻害するCIの存在も明らかになり、菌の球状化は、CF、CI両者のバランスによって決定されているように思われた。 2)菌の球状化に影響を与える背景因子の検討 CF、CIの物理化学的性状を明らかにしようと試みた結果、当初予想した以上に種々の条件が、球状化に影響を与えることが明らかになってきた。そこで、比較的単純な系で、菌の球状化がどのような因子に影響されるかを正しく把握する必要性に迫られた。 3)NaClによる菌の球状化阻害 前年度に開発した方法を用いて、単純な組成の溶液中での菌の球状化を調べたところ、蒸留水に懸濁された菌は、数時間の経過を辿って球状化する事が明らかになった。一方、生理的な濃度のNaClは、菌の球状化を阻害した。しかし、NaClの球状化阻害効果は、浸透圧では説明できず、実際、様々な糖を添加した溶液に球状化阻害効果は認められなかった。 4)Na^+が菌の球状化を阻害する可能性 Na^+、Cl^-のどちらかを組成中に有する塩を添加した溶液でさらに検討を加えると、Na^+イオンに菌の球状化阻害が認められた。さらに、Na^+トランスポーターの阻害剤であるAmilorideを溶液中に添加すると、Na^+による球状化阻害効果は部分的に解除された。以上の結果は、菌体内へ取り込まれたNa^+が菌の生理に何らかの影響を与え、球状化を阻害する可能性を示唆していると考えられた。
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