研究概要 |
本研究の目的は、ピロリ菌がどんな刺激に反応して、ライフサイクルの1形態である球状化へ至るのかを明らかにすることである。当該研究期間に明らかにしたことを以下に要約する。 1)ピロリ菌の球状化を促進する物質(CF)と球状化を阻害する因子(CI)の発見 48時間以上ピロリ菌を培養した培養上清(SUP48)が、対数増殖期の桿状菌体の球状化を促進することを見出し、SUP48にCFが存在する可能性を見出した。CFは、100℃、5分間処理で失活しない、分子量3,OOO以下の低分子で、還元剤処理でその活性が失活した。さらに、球状化を阻害するCIの存在も明らかになり、菌の球状化は、CF、CI両者のバランスによって決定されているように思われた。 2)マイクロプレートを使用した球状化活性測定系の開発 CF、CIの単離・精製のために必要となる、球状化活性測定系を開発した。この系では96穴マイクロプレートを使用、100検体以上を同条件下で検討することを可能にした。 3)NaClによる菌の球状化阻害 CF、CIの単離・精製条件を検討する過程で、使用する緩衝液等によって球状化が大きく影響されることが明らかとなった。例えば、蒸留水に懸濁された菌は、数時間の経過を辿って球状化した。一方、生理的な濃度のNaClは、菌の球状化を阻害した。この阻害効果は単なる浸透圧では説明できず、等張の糖溶液に球状化阻害効果は認められなかった。また様々な塩溶液で検討した結果、Na^+イオンが菌の球状化阻害に何らかの役割を果たしている可能性が認められた。 4)Na^+が菌の球状化を阻害する可能性 Na^+トランスポーターの阻害剤であるAmilorideを溶液中に添加すると、Na^+による球状化阻害効果は部分的に解除された。以上の結果は、菌体内へ取り込まれたNa^+が菌の生理に何らかの影響を与え、球状化を阻害する可能性を示唆していると考えられた。
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