腸管病原性大腸菌の宿主特異的感染の分子機構の研究

2001 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 12670249
• 研究機関: 大阪大学
• 研究代表者: 戸邉 亨 大阪大学, 医学系研究科, 助教授 (70207596)
• キーワード: 細胞付着因子 / 病原性 / 線毛 / レセプター / 病原性大腸菌

研究概要

腸管病原性大腸菌EPECの感染は極めてヒト特異的であり未だに実験動物を用いた感染モデル系が確立できていない。本菌の感染成立には腸管上皮細胞表層への付着が重要であることは明らかである。培養細胞を用いたin vitro付着実験によってもEPECに特徴的な局所的な微小集落の形成および本菌密着によるattaching and effacing (A/E)障害が再現される。本研究課題においてはEPECのヒト特異的細胞付着が培養細胞を用いた付着実験系でも再現されること、さらに細胞をホルマリン処理することによりヒト以外の細胞で観察される非特異的付着が完全に消失することを見いだした。すなわちEPECの細胞付着にはホルマリンに修飾され難いヒト特異的細胞側受容体とホルマリンにより修飾され易い他種細胞にも存在する受容体の少なくとも2種類の受容体が関与していることが示唆された。ヒト特異的付着にはEPECの束状線毛が必須でありさらにその主要構成蛋白質BfpAが直接結合することを明らかにした。束状線毛は本菌の自己凝集形成にも必須の役割を果たしているが、宿主細胞との付着とそれに続く細胞上での集落形成の付着段階のなかでは主に初期付着に重要であることが明らかになった。この結果は束状線毛の発現が細胞付着後経時的に消失していく免疫染色による観察の結果と一致した。一方後期付着段階に必須のEsp蛋白質の分泌は付着後活性化され、細胞付着刺激によりEPECの付着様式が順次変化していくことが明らかとなった。細胞付着による付着因子発現の変化は転写段階でも観察できることも明らかとなり、EPECは細胞付着後も病原性遺伝子の発現を付着段階に応じて調節していることが示唆された。

研究成果

• [文献書誌] Okutani, A., et al.: "Comparison of bacteriological, genetic and pathological characters between Escherichia coli O115a, c : K(B) and Citrobacter rodentium"Exp Anim. 50. 183-186 (2001)
• [文献書誌] Hayashi, T., et al.: "Complete genome sequence of enterohemorrhagic Escherichia coli O157 : H7 and genomic comparison with laboratory strain K-12"DNA Res. 8. 11-12 (2001)
• [文献書誌] Han, C.-G., et al.: "Structural and Functional Characterization of IS679 and IS66-Family Elements"J.Bacteriol.. 183. 4296-4304 (2001)
• [文献書誌] Tobe, T., Sasakawa, C.: "Role of bundle-forming pilus of enteropathogenic Escherichia coli in host cell adherence and in microcolony development"Cell Microbiol.. 9. 579-586 (2001)
• [文献書誌] Tobe, T., Sasakawa, C.: "Species-specific cell adhesion of enteropathogenic Escherichia coli is mediated by type IV bundle-forming pili"Cell Microbiol.. 4. 29-42 (2002)
• [文献書誌] Okada, Y., et al.: "Cloning of rel from Listeria monocytogenes as an osmotolerance involvement gene"Appl En v Microbiol.. (印刷中). (2002)
• [文献書誌] 戸辺亨: "日本臨床6月号"日本臨床社. 3 (2002)