平成12年度:N-WASPに結合するシグナル伝達分子やアクチン重合制御因子の同定 赤痢菌の感染細胞内におけるアクチン重合は、菌体表層に発現するVirG蛋白へ宿主側の蛋白Neural-Wiskott Aldrich syndrome protein(N-WASP)が結合することによって生じる。これまでの報告で細胞内のN-WASPは分子内フォールディングにより通常不活化されており、これに低分子量GTP結合蛋白Cdc42が結合することによりフォールディングが開裂して活性化するという仮説が提唱されている。さらに活性化したN-WASPには7つのサブユニットからなるArp2/3complexが結合しこれが直接アクチン重合を引き起こすと考えられている。実際にVirGによるアクチン重合機構にそのようなカスケードが必要かどうか調べるために、まず精製した活性化型低分子量GTP結合蛋白(Cdc42、RacおよびRho)の赤痢菌感染細胞への微量注入実験を行い、赤痢菌によるアクチン重合における低分子量GTPaseの関与を調べた結果、Rho family GTPaseの中でもCdc42が赤痢菌によるアクチン重合機構に必要であることを見い出した。Cdc42に結合しないN-WASPの変異蛋白を用いた実験からCdc42のターゲットはN-WASPであり、Cdc42がN-WASPに結合しそのアクチン重合核形成能を活性化することによって赤痢菌によるアクチン重合を制御していると考えられた。現在、N-WASPのC末端側にG-actinとActin related protein(Arp)2/3複合体が結合することによってアクチン重合核が形成されると考えられている。実際に赤痢菌によるアクチン重合部位にもArp2/3の凝集が認められたことから、赤痢菌は細胞の糸状仮足形成に関与する蛋白群を巧みに自らの感染に利用していると考えられる。
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