細菌の病原性因子の一つであり、細菌の血清型別に用いられているEscherichia coliリポ多糖体(LPS)のO多糖合成機構を明らかにする目的で、E.coli O9多糖合成遺伝子をクローニングしその機能を調べてきた。E.coli O9多糖合成遺伝子群は、8個の遺伝子から構成されることが明らかになっている。現在までにそのうち7つの遺伝子について機能を明らかにしたが、残るwbdD遺伝子についてはその機能が不明であった。そこで、このwbdD遺伝子の変異株を作製し、そのO多糖合成に与える影響を調べた。wbdD変異株では、合成されたO多糖が細胞内に蓄積し細胞外には輸送されないことを免疫電子顕微鏡の技術を使い明らかにした。さらに、wbdD遺伝子の発現系を構築し、これを用いて先の変異株の相補性試験を行うと、wbdD遺伝子の発現量に伴い、O多糖の長さが変化することを見いだした。これらの結果は、すでに明らかにされているABCトランスポーター以外にも、O多糖輸送に関わる遺伝子が存在すること、さらにその輸送の過程がLPSのO多糖の長さに影響する可能性を示唆している。また、O9多糖を有するE.coli野生株は、莢膜多糖をもつ場合が多いことが知られている。すなわち、莢膜多糖抗原とO多糖合成が同時に行われているわけである。クローニングに用いたO9血清型のF719株を用い、O9多糖合成が行われる場合には莢膜多糖の長さが伸びないこと、O9多糖合成を阻害すると莢膜多糖の長さが伸びることなどを明らかにした。これらの結果は、O多糖と莢膜多糖合成の間には未だ明らかになっていない何らかの調節機構が存在することを示唆している。現在この調節機構について詳細な検討を行っている。
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