研究概要 |
本年度は,細胞外からの情報に対する受容体蛋白質として機能する膜蛋白質の一つのカテゴリーであるGPIアンカー型蛋白質(glycosyl phosphatidylinositol anchored proteins)が,細菌金属プロテアーゼVVPの標的膜蛋白質であるか否かについて検討した。 1.ウサギ赤血球での研究:昨年度までの研究により,ラット肥満細胞のモデルとなり得ることが示されたウサギ赤血球を用い,VVPとGPIアンカー型蛋白質との結合性について検討した。まず,GPIアンカー型蛋白質のみを特異的に赤血球膜から遊離させるPI-PLC (phosphatidylinositol specific phospholipase C)の効果を調べた。ウサギ赤血球膜を様々な濃度のPI-PLCで処理し,各々についてVVPの結合量を測定した。しかしながら,いずれの赤血球膜においてもVVPの結合量に違いは認められなかった。次に,GPIアンカー型蛋白質が集積するラフトと呼ばれる膜分画を調製し,これにVVPが結合するか否か調べた。しかし,VVPの有意な結合は観察されなかった。よって,ラフト分画以外にVVPの標的膜蛋白質が存在すると結論された。 2.ラット肥満細胞での研究:まず,ラット肥満細胞をPI-PLCで処理することにより,VVPの惹起するヒスタミン遊離反応が減弱するか否か検討した。しかしながら,PI-PLC処理自体でヒスタミン遊離反応が惹起され,明確な結果を得ることはできなかった。そこで,肥満細胞よりラフト分画を調製し,これの共存下においてヒスタミン遊離反応を惹起させた。VVPを種々の量のラフトとともに肥満細胞へ作用させたが,惹起されたヒスタミン遊離反応は,すべてにおいて同じ強さであった。したがって,ラフト分画にはVVPの標的蛋白質が存在しないと結論された。 以上,本年度の研究により,VVPはGPIアンカー型蛋白質以外の膜蛋白質を標的として細胞膜へ結合し,赤血球の凝集やヒスタミンの遊離を惹起することが明らかとなった。
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