研究概要 |
腸管出血性大腸菌(entero-hemorrhagic Escherichia coli,EHEC)抗原型O157:H7(以下O157)の感染症において、最も重篤な合併症とされるのは溶血性尿毒症症候群(hemolytic-uremic syndrome,HUS)である。我々は腸内細菌を欠く無菌マウスにO157を経口接種することによってEHEC感染動物モデルを作成し、さらに、大腸菌由来LPSを腹腔内投与したところ、HUSの腎組織所見(毛細血管壁の肥厚、尿細管細胞の変性、メサンギウムの増殖による糸球体の腫大等)に相当する腎病変を認めた。そこで、このHUS動物モデルを解析することによって、HUS発症の機序を追究している。O157に伴うHUSがO157感染のみでは出現せず、O157感染後に強力なサイトカイン誘導物質であるLPSを投与することにより発症することから、HUS発症には宿主側のサイトカインの関与が示唆され、先ずはこれについて検討した。O157感染マウスにLPSを投与し、3,8時間後に腎臓よりRNAを抽出し、RT-PCR法にて炎症性サイトカインのmRNAの発現を調べた。O157感染マウスのLPS投与8時間後に、IL-1b,TNF-a,特にIFN-gの発現が顕著であり、さらに、抗IFN-g中和抗体の投与によって糸球体の組織変化が改善された。これらのサイトカインにより産生が誘導される酸化窒素合成酵素(iNOS)mRNAの発現もRT-PCR法にて調べた結果、O157感染LPS投与マウスにおいて顕著な発現が認められた。これらの結果より、O157+LPS投与により、高値となったIFN-gがNOの産生を促し、好中球(血液像で高値を示した結果を得ている)由来の活性酸素と反応してペルオキシニトライトによって腎組織傷害の一因をなしたものと推察した。そこで、現在iNOS遺伝子欠損マウスにO157+LPS投与を行い、腎病変の有無を検討中である。また、抗ニトロチロシン抗体を用いた組織化学によりNOにより傷害を受けた腎部位を検出する実験も進めている。
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