恙虫病病原体であるOrientia tsutsugamushi (Ot)各株の系統関係を明らかにするために、日本内外の代表的な7株について、5種の蛋白遺伝子、16SrRNA、及び23S-5SrRNA間のinternal transcribed sequence (ITS)の計7種の塩基配列を比較した。その結果、これらの株間での相同性は、16SrRNA、及び細胞質内蛋白である11kDa、60kDaでは変異が少なく、22kDa、46kDa、56kDaの表面に露出した外膜タンパク及びITSで変異が大きいことが判った。特に、型特異抗原蛋白である56kDa蛋白の遺伝子は最も変異の度合いが高く、塩基配列が最も異なる株同士の組み合わせで63.6%の相同性となった。これら塩基配列の変異率と塩基配列の長さから56kDa、46kDa遺伝子およびITSでは統計的に有意な系統樹を描くことができたが、他では系統樹が描けても有意性が低いものが多かった。これら3種の系統樹を比べると、Shimokoshiが他の株と離れた位置にあることでは一致し、この株が系統的に離れていることが明かになった。しかし、他株ではそれぞれの系統樹上での相対的位置が一致せず、3種の塩基配列にはそれぞれ異なる淘汰圧が働いて来たことが伺われた。一般に表面蛋白では外部からの淘汰圧による変異が生じ易く、その反面、ITSは転写後切り捨てられるため中立的な変異が蓄積されやすく、系統解析に適当であると言われている。Otでも株間のITSの相同性は56kDa蛋白遺伝子とほぼ同様の数字を示し低かったが、ITSが130塩基対前後と短いため、相同性の高い株間の解析はできなかった。現在、我々はOtの全ゲノムを明らかにしつつある。その結果より、偽遺伝子など株間の比較に適した塩基配列やゲノム構造自体の比較による系統解析が可能になるものと期待している。
|