研究概要 |
インフルエンザ菌の抗菌薬に対する耐性機構には、その標的部位であるPBP3の変異により耐性化したBLNAR(β-lactamase-negative ampicillin-resistant H. influenzae)や排出蛋白によるマクロライド薬に対する耐性化などが存在する。インフルエンザ菌には大腸菌のAcrAB排出システムと相同性を持つ排出蛋白が同定されており、このAcrAB様排出システムはErythromycin, Novobiocin, Rifampin, Ethidium bromide, Crystal violetなどの抗菌性化合物を排出することが報告されている。昨年、私共はインフルエンザ菌におけるAcrAB様排出システムによるマクロライド薬排出についての検討を行うために、まずAcrAB様排出システム欠損株の作製を行い、さらに未だ同定されていないAcrAB様排出システムの外膜コンポーネントの探索を行い、これらの遺伝子を同定することに成功した。今年度は、インフルエンザ菌の薬剤感受性にどの程度排出蛋白が関わりを持つのかを詳細に調べるために、acrA遺伝子がコードするHI0894蛋白、acrB遺伝子がコードするHI0895蛋白、そしてtolC様遺伝子がコードするHI1462それぞれの特異抗体の作製に取りかかった。まずインフルエンザ菌の標準株ATCC10211から熱抽出でchromosomeを得てこれをPCR法の鋳型として用い、増幅した遺伝子を発現ベクターpProEX-Htaに組み込んだ。クローニングが成功したトランスフォーマント大腸菌を誘導物質であるIPTGで蛋白を過剰発現させ、菌体を破砕後、蛋白を抽出しCBB染色法、Western Immunoblot法などで目的とする蛋白であるかを確認した。得られたAcrAおよびTolC様蛋白が共に不溶性であったため、8M Ureaで溶解し、その蛋白をNi2+アフィニテイーカラムを用いて精製した。そして十分量精製した後、濃縮を行い、抗体作製の抗原蛋白とした。AcrB内膜蛋白に関しては、今回の条件では成功しなかった。これは恐らく宿主として用いた大腸菌にとって、この蛋白が致死的に作用するのかも知れない。現在発現ベクターや誘導条件をさらに検討中である。今後、これらの抗体を作製することにより、臨床分離株から排出蛋白を過剰発現した株の検出が容易になり、インフルエンザ菌の耐性における排出蛋白の関与および機能の解明へとつながることが予想される。
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