我々は、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)を産生する細胞を新生仔マウスに投与することにより、HTLV-1がマウスに感染し、18カ月間にわたってプロウイルスが検出されることを証明してきた。しかし、無細胞系のHTLV-1粒子の感染性については殆どわかっていないのが現状である。我々は、ネコ線維芽細胞より産生される無細胞系のHTLV-1粒子がマウス培養細胞とヒト培養細胞に侵入することを昨年明らかにした。本年度は、更に、この過程に於いてウイルス粒子がマウス細胞に吸着する段階及び細胞に侵入する段階について調べた。驚くべきことに、ヒトT細胞株よりもマウスT細胞株への吸着と進入効率が数倍高かった。また、ウィルスDNAの検出も、マウス細胞では1時間目より検出されるのに対して、ヒトT細胞では少し遅れて3時間目より検出された。しかし、ヒトT細胞ではその後30日にわたって持続してウィルスDNAが検出されるのに対して、マウス細胞中でのウイルスDNAは早く減少し、21日目には検出できなくなった。ウイルスDNAの発現をRT-PCRで調べたところ、感染後、ヒトT細胞では4日目まで、マウスT細胞では2日目まで検出され、以後は検出されなかった。 ATLの発症に関しては、従来は、吉田らにより精力的にウイルス遺伝子のTaxタンパク質のトランスに働く作用が重点的に調べられてきた。一方、HTLV-1がATL細胞に組み込まれていることから、HTLV-1のゲノムへの組み込みが何らかのシス効果を生じる可能性がある。我々は、HTLV-1が組み込まれたゲノム上の位置を感度良く検出するためのInverse PCR法を開発した。これを用いて、ATL細胞について組み込み部位を調べたところ、幾つかの増殖関連遺伝子と考えられる部位に挿入されていることが分かった。
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