本研究は単純ヘルペスウイルスの潜伏感染機構および遺伝子発現機構を2つの重要なウイルス因子であるICP0とUL13に焦点をあて、解析することを目的としている。本年度は特にICP0に関して以下の結果を得た。 HSV ICP0と相互作用する宿主細胞因子のさらなる検索を行った。Two-hybrid screeningの結果、ICP0がbHLH-PASスーパーファミリーに属する宿主転写因子BMAL1と相互作用することが明らかになった。この相互作用は、GST-pull down法でも確認された。また、luciferase assayを用いた解析より、ICP0はBMAL1と相互作用し、BMAL1特異的な転写を活性化することが明らかになった。また、HSV-1感染細胞中においては、細胞質のBMAL1の発現が非感染細胞と比して著しく低下していることが明らかになった。ICP0欠損ウイルスを用いた解析によって、感染細胞中におけるBMAL1の消失にICP0が関与していることが明らかになった。以上の結果よりICP0は宿主転写因子BMAL1と相互作用し、転写を活性化する、また、細胞質におけるBMAL1の発現を安定化させることが示唆された。bHLH-PASスーパーファミリーに属する転写因子は、細胞外のストレス応答を制御していることが知られている。HSVは主にストレスによって再活性化することが知られている。再活性化を制御するICP0が細胞のストレス応答を制御する宿主細胞転写因子BMAL1と相互作用することは、この相互作用がHSVの再活性化において何らかの役割を果たしていることを示唆している。
|