完全長NS1、およびNS1のN末側(1-144)アミノ酸部分は、2本鎖RNA、ポリU・RNAおよび(U)_6、ウイルスゲノムRNAにこの順序の強さで結合するが、ポリA・RNAには結合しない。NS1のN末側(1-82)アミノ酸部分に短縮すると、これらのRNA結合力は増強し、PKR活性化阻害能も増強する。さらに、ポリA・RNAにも結合するようになる。すなわち(83-144)アミノ酸部分によりRNA結合力と結合特異性が変化する。ポリA結合能の生理的意義としては、mRNAの3'末ポリAテールへのNS1の結合がこのタンパクによる翻訳調節機構に関係する可能性があり、さらに調べている。(U)6結合能については、このウイルスの各ゲノムRNA分節の5'末端13塩基の共通配列の直後に5〜6塩基のUクラスターがあり転写での3'末ポリAの合成開始点となっているが、NS1はここに強く結合する。隣接する5'末端13塩基は3'末端とパンハンドル構造を形成し、NSlはここにも強固に結合する。このパンハンドル構造はPKRを強く活性化するが、NS1のこのパンハンドル構造への結合はPKRの活性化を完全に阻害する。一方、Uクラスターの部分はRNA干渉による切断部位となる可能性があり、NS1の結合によりこの切断を防ぐことが考えられる。 NS1は複数のSer/Thrのリン酸化を受けるが、その部位の同定を行った。リン酸化によりRNA結合能が低下するがPKR活性化阻害に対する影響はなかった。感染細胞内の核や細胞質に分布するNS1、またvRNPやリボゾームに結合しているNS1のリン酸化の度合いを感染時間を追って定量したが、存在部位による差は認められなかった。
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