研究概要 |
本研究ではシリアンハムスター由来細胞で増殖させた狂犬病ウイルス粒子中に取り込まれる宿主由来成分のうち、CD99関連タンパクであるVAP21に着目し、この膜タンパクのウイルス粒子形成に及ぼす役割を明らかにすることを目的とした。まず初めにtetracycline-regulated gene expression systemを用いテトラサイクリンにより誘導可能なVAP21発現細胞の樹立を試みた。VAP21の発現は培地からテトラサイクリンを除去後、間接蛍光抗体法(IFA)、ウエスタンブロット(WB)法により確認した。VAP21非発現細胞(HeLa, MDCK, COS-7, CHO)に3種類のDNA(pTet-tTAk, pTet-VAP21, pIRES-neo)をトランスフェクション後4日目にIFAを行ったところ、VAP21抗原陽性率は3.5%(HeLa/VAP21)、9.5%(MDCK/VAP21)、10.5%(COS-7/VAP21)、1.3%(CHO/VAP21)であった。これらの細胞についてさらに培養を続けるとMDCK/VAP21を除いて抗原陽性細胞数は徐々に減少し、G418耐性細胞が樹立される頃には全て消失した。MDCK/VAP21については限界希釈によりクローニングを行ったところ、抗原陽性率の高い3つのクローン(陽性率:14〜50%)を得ることができたが、さらに培養を続けたところ、抗原陽性細胞は全て消失した。以上の結果から、本来VAP21が備わっていない細胞にVAP21を発現させると細胞死が誘導される可能性が考えられたため、次にVAP21を恒常的に発現しているシリアンハムスター由来の2種類の細胞(BHK21, HmLu)にVAP21遺伝子を導入し、VAP21過剰発現細胞の樹立を試みるとともにVAP21のこれらの細胞に与える影響について検討した。G418耐性となったコロニーについてWB法でVAP21発現量を定量したところ、BHK21/VAP21では64倍、HmLu /VAP21では128倍、親株(BHK21, HmLu)に比べて増加していた。次にMDCK/VAP21(抗原陽性率:40%)、COS-7/VAP21(一過性発現、抗原陽性率:20%)、BHK21/VAP21についてVSVを感染させ、VAP21のウイルス増殖に及ぼす影響について調べたところ、MDCK/VAP21では2倍、COS-7/VAP21及びBHK21/VAP21では4倍、ウイルス産生量が親株より増加していた。以上の結果からVAP21はウイルス増殖にポジティブに働く可能性が示唆された。なお、VAP21非発現細胞では緩徐に引き起こされる細胞死のためにVAP21発現誘導可能な細胞が樹立できなかったことから、VAP21の発現と最近報告されているCD99によるアポトーシス誘導との関連性について現在検討しているところである。ところで、VAP21過剰発現細胞においては細胞表面に球形の無数のvesicle形成が見られるようになった。この所見はvesicle形成がウイルス粒子形成に何らかの役割を演じている可能性があることを示唆するものであり、VAP21のウイルス粒子形成における役割について今後さらに検討していく予定である。
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