国内のある動物実験施設の流行から分離されたセンダイウイルス浜松株はマウスに対して強い病原性を維持している。一方で、このウイルスを非自然宿主の発育鶏卵で継代すると弱毒化する(清谷ら、印刷中)。私たちは浜松株の全塩基配列を解析し(藤井ら、2001)、さらに弱毒化にともなう変異を同定した(投稿準備中)。本研究では、卵継代弱毒株の変異の意味を明らかにするために、各変異を導入した変異ウイルスを作製しマウスでの増殖・病原性を検討する。 今年度は、浜松株全長のゲノムに相当するcDNAからウイルスを回収する系を確立した(投稿中)。さらに弱毒化にともなう変異として同定された変異のうち、転写・複製のプロモーターにあたるLeader部位の2カ所の変異(20・24位)について、すべての組み合わせを持つ、4種類のウイルスを作製してウイルスの肺内増殖・病原性を調べた。その結果、20・24位のいずれか一方に変異が入ったのではほとんど影響がないが、20・24位の両方に変異が入ると病原性が100倍程度に低下することがわかった。これに伴って肺内でのウイルス増殖も低下していた。これは、リーダー部位の変異によって病原性が支配されているというはじめての報告である。この変異によるウイルス増殖抑制はマウス肺やマウス気管上皮初代細胞では観察されるが、発育鶏卵や鶏胎児初代培養細胞では観察されないので、マウスに特有な現象といえる。以上の研究については、2000年度の日本ウイルス学会と日本分子生物学会で報告し、現在、論文にまとめている。 次年度には、さらにリーダー配列の変異によるウイルス弱毒化の機構を解析する。また、他のL蛋白の変異をもつウイルスを作製してこれらの変異の影響を解析する予定である。
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