ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は感染後細胞内でウイルスゲノムRNAを相補DNAに変換して組み換え前複合体(PIC)を形成し、その後核内に移行し宿主染色体に入り込む。このDNAへの変換以降のステップ(広義の組み込み反応)のメカニズムを明らかにし、これを制御する技術を開発することを目的とし以下の研究を行った。 HIVが増殖しないように1サイクルの組み込みだけを解析するためにHIVをベースにしたベクターを作製した。従来HIVベクターにHIVのウイルス中央多プリン配列(cPPT)を挿入すると遺伝子導入効率が高まるとされてきた。そこで、HIVベクターでマーカーとしてネオマイシン耐性遺伝子を有するHXNベクターに従来報告されていた178塩基のcPPTまたはそれよりも長い282塩基のcPPTを挿入したベクターを作製し、組み込み効率、核移行効率、遺伝子導入効率を調べた。cPPTを有するHIVベクターではそうでないHIVベクターに比べて遺伝子導入効率が高いと一般には信じられてきた。しかし、我々の系では282塩基のcPPT領域を挿入したHXNベクターでは逆に効率が約20%に低下した。一方、従来cPPTと報告された178塩基の領域を挿入したベクターでは効率がおよそ倍になった。一方核移行効率には変化はなかった。さらに、遺伝子導入効率が低下した282塩基のcPPTを有するベクターにおいては組み込み効率が低下していた。cPPTが核移行に必須であるという従来の見解は誤りで、"各移行後のなんらかのステップに重要である"ことを明らかにした。 我々の用いた282塩基領域には存在するけれども従来の178塩基領域には存在しない場所に組み込みを抑制する領域があってその領域に何らかのヒトタンパク質が結合して組み込みを抑制していると予想している。今後これを検証する計画である。
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