本研究はインフルエンザウイルス感染によるアポトーシスの生体での意義を解明し、感染直後の宿主病態を明らかにするとともに、ウイルス感染防御に応用することを目的とした。昨年度は、インフルエンザウイルス感染細胞をマウスマウス腹腔浸潤マクロファージと混合培養し、アポトーシスを引き起こした細胞が選択的に貪食されること、アポトーシスをカスパーゼ阻害剤により抑制することにより貧食の割合も減じること、また、貧食に細胞表面のホスファチジルセリン(PS)が関与していることを明らかにした。本年度は、ノイラミニダーゼ(NA)温度感受性変異株を用いて誘発したアポトーシス細胞の貧食効率が、野生型のウイルスにより誘発された細胞のそれよりも低いことを見出した。また、NA阻害剤(ザナミビル)存在下に感染細胞を培養しても同様の現象が認められることが判明した。変異株は野生株と同程度にアポトーシスを引き起こし、またザナミビルもアポトーシスそのものは抑制しなかった。しかしながら、細胞表面からのシアル酸を含む糖鎖の切断の程度は変異株、あるいはザナミビルを用いた系で減少していた。以上から、NAによって切断されるシアル酸の減少がマクロファージによる効率的な貧食反応に必要であることが明らかとなった。つぎに、ウイルス感染細胞に、ヒト抹消血多核白血球を混合培養し白血球に及ぼす影響を検討した。健常対照者から採血した白血球をインフルエンザウイルスを感染したHeLa細胞とともに共培養した結果、白血球よりもむしろウイルス感染細胞に強い細胞障害が認められた。その際、培養上清中のウイルス力価は、白血球添加と非添加で大きな差はなかった。しかしながら、白血球と非感染細胞との混合培養でも若干細胞障害が認められたため、実験条件を引き続き検討していく必要があると考えている。
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