抗原によるT細胞の活性化にはLFA-1/ICAM-1を介した抗原提示細胞との接着が必要とされるが、この過程に関与するシグナル分子が何かという点や、また接着がどのようにT細胞活性化に関わっているかということについては明らかにされていない。これらの点を明らかにするために、本研究ではいくつかのT細胞株を用いて細胞接着制御の分子機構とそのT細胞活性化への関与について解析を行った。その結果、抗原依存的なT細胞活性化に応じてRap1活性化が起こり、それがT細胞と抗原をロードした抗原提示細胞との接着面に集積することが判明した。優性抑制変異型Rap1ならびにSPA-1の発現によりRap1の活性化を阻害すると、このT細胞と抗原提示細胞とのLFA-1/ICAM-1を介した細胞接着と、それに引き続くIL-2産生が抑制された。これに対し、野生型Rap1の過剰発現により抗原依存的Rap1活性化を亢進させると、抗原提示細胞との凝集ならびにIL-2産生が増強するとともに、Fas/FasLを介したアポトーシスの誘導が観察された。以上の結果より、Rap1はT細胞と抗原提示細胞との相互作用におけるキー分子として動くこと、ならびに細胞接着の強度を制御することにより、T細胞の反応を適度な反応から活性化誘導性細胞死の惹起まで変化させうることが示唆された。さらに持続的なRap1の活性化はp27kip1の蓄積を伴い抗原不応答性(アナジー状態)を誘導することも明らかとなった。これらの結果は、Rap1の活性化状態は抗原に対するT細胞の反応性を決定づける効果があることを強く示唆している。
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