本研究は、中胚葉から発生する胚型血液細胞系譜と、血管内皮から発生する成体型血液細胞系譜という血液細胞発生の2つの分化系路の枠組みの中で、TAL1、GATA2、c-Myb、AML1などの転写因子が担っている階層的な役割を理解することを目的としている。このために、マウス胚性幹細胞(ES細胞)から中胚葉細胞および血管内皮細胞を経て血液細胞に至る試験管内分化系を利用して、特定の転写因子を発現する細胞の分化能力の追跡(A)、特定の転写因子の発現誘導による血液細胞の発生制御(B)、という2つのアプローチにより研究を進めている。 本年度は(A)として、TAL1を発現する中胚葉細胞を検出しその分化能力を解析することを試みた。Tal1遺伝子のプロモーター・エンハンサーの制御下にマーカー遺伝子を発現するES細胞を作成したところ、少なくともES細胞の試験管内分化系において、現在までに報告されているTal1シスエレメントは内在性のTal1遺伝子発現を再現しないことが判明し、本研究の目的には利用できないことが示された。 次に(B)として、TAL1を強制発現するES細胞を作成し血液細胞の発生における影響を解析した。TAL1の強制発現は、GATA1を発現する中胚葉細胞サブセットを特異的に増加させた。このサブセットは胚型血液細胞系譜の前駆細胞を特異的に含み、胚型血液前駆細胞の実数の増加がもたらされた。この効果は、DNA結合能を欠損するTAL1変異体を用いた場合にも観察されたが、他のタンパクと会合できないTAL1変異体では認められなかった。TAL1は中胚葉の段階における血液発生の初期的なプログラムに参加していることが示唆され、その作用は他のタンパクとの複合体の中で転写活性を調節しているものと考えられる。
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