研究概要 |
IL-10は抗炎症性の制御系サイトカインとして、各種炎症性細胞、特に活性化マクロファージやTh1型のCD4T細胞の過剰な反応を抑制し、免疫システムの生理学的な恒常性の維持に重要な役割を果たしてる。このことはIL-10遺伝子を欠損した遺伝子改変(KO)マウスにおいて自発的に消化管に限局したヒトの炎症性腸疾患のひとつであるCrohn病に酷似した慢性大腸炎をひき起こすことより明確に示された.このことから本マウスはヒトにおける炎症性腸疾患の病態解明に役立つモデルとして利用されている.IL-10 KOマウスの慢性腸炎の発症には、主としてTh1型のサイトカインを産生するCD4T細胞が病態形成性T細胞として深く関与していることが数多くの研究より明らかにされている。報告者らはこの病態形成性T細胞の抗原認識レセプター(TCR)を解析することで抗原認識機構を介した新しい粘膜標的炎症性疾患の予防ないし治療法の開発をめざしている.そこでTh1型病態形成性T細胞のTCRレパトア形成のプロセスを明らかにすることを目的とし,T細胞レセプターβ鎖のスペクトラタイプ解析をImmunoscope法を利用して行った。 まず病変部大腸に集積する病態形成性T細胞に個体差、系統差、飼育環境の差を超えた普遍的な反応性がみられるかを検討した。まず米国ラホヤアレルギー免疫研究所のSPFの施設で飼育し発病に至ったIL-10 KOマウスの病変部大腸CD4陽性T細胞を用いてImmunoscope解析をおこなった。CβプライマーによるRun-off解析の結果、TCRVβ12、Vβ13サブセットにおいて抗原特異的な反応に基づく選択があったことを示唆するskewingがみられた。つづいて阪大・微研の通常の環境に近い施設で飼育され大腸炎を発症したIL-10 KOマウスの大腸CD4T細胞を解析したところ、Jβプライマーによるrun-off解析の結果,TCRVβ12、Vβ13サブセットにおいては実験に供したすべての腸炎発症マウスにおいて共通のskewingが観察された。ラホヤアレルギー免疫研究所で飼育された腸炎発症IL-10 KOマウスの結果とあわせると、TCRVβ12、Vβ13サブセットにみられるバイアスは個体、系統、飼育環境を問わないパブリックな病態形成性T細胞の可能性がきわめて高いと考えられた。さらにラホヤアレルギー免疫研究所ならびに阪大微生物病研究所で飼育した腸炎発症IL-10 KOマウスの病態形成T細胞TCRVβ12、Vβ13サブセットに観察されたバイアスをDNA塩基配列レベルでも検討した.その結果,個体、系統、飼育環境を問わないパブリックな病態形成性T細胞はその抗原認識領域(CDR3 motif)としてSer-Ala-Thr-Gly-Asn-Tyr-Ala-Glu-GlnないしSer-X-Asp-Trp-Glyというアミノ酸配列を有することが明らかになった。今後このモチーフをシーズとしたヒトの粘膜標的型慢性炎症性疾患の治療ないし予防診断薬の開発に期待がもたれる.
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