研究概要 |
環境ホルモンの海馬切片長期増強に与える影響の計測 4〜5週令のオスのラットをエーテルで麻酔した後断頭し,脳を取り出し,350μmの厚さの海馬スライスを切り出した。記録用チェンバーは顕微鏡のステージ上に設置し,酸素を吹き込んだ人工脳脊髄液を2〜3ml/minの速度で灌流し,水温30℃で実験を行った。電気生理学的なパラメーターとして,CA1領域の興奮性シナプス後電位(EPSP)を計測した。長期増強の指標としてこのEPSPの傾きを用いた。環境ホルモンとして,海生生物に生殖障害を引き起こすとともに,人体への悪影響も推測される物質であるトリブチルスズ(TBT)を実験に給した。EPSPが10分間安定であることを確認したあと,投与条件では50%のエタノールに溶解したTBT300μlを加え灌流液中の濃度を5μMとした(n=9)。コントロール条件では同量のエタノールを投与した(n=7)。30分間EPSPを記録した後,電気的な高頻度刺激(100Hz1secを2回)を加え長期増強を誘導し,その後1時間のEPSPを観察した。 5μMTBTの投与により,対照実験に比べ長期増強の度合いが減少し,高頻度刺激後30分と60分では両群の間に有意な差が認められた(P<0.05)。また,一部のスライスでは長期増強が誘導されないなど,誘導そのものへも影響がある場合があった。長期増強の誘導にはグルタミン酸受容体の一種であるNMDA受容体が関与し,通常の反応にはNon-NMDA受容体が関与している。したがって,本研究の結果からNMDA受容体が損傷されたことが示唆された。
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