研究概要 |
【はじめに】インジウムは化合物半導体であるインジウムリン(InP)の構成元素として従来用いられてきたが、最近ではインジウムの80%以上がインジウム・スズ酸化物(Indium-tin oxide : ITO)の主構成元素として液晶ディスプレー(LCD)の透明電極に用いられている。今回、ITOとInPをハムスターの気管内に連続投与し、肺に及ぼす影響について比較検討した。 【実験方法】被験試料はITO粒子[インジウム74.4%、スズ7.8%(wt%),幾何平均粒径;0.95μm、σg;2.42]およびInP粒子(99.99%以上、幾何平均粒径;1.06μm、σg;1.80)を用いた。実験群は3群[ITO群(10匹)、InP群(5匹)、、対照群(6匹)]設定し、1回投与量としてITO、InP各々6mg/kg/匹を滅菌蒸留水(対照群は滅菌蒸留水のみ1ml/kg)に懸濁し,SPF環境下で飼育されているシリアンゴールデンハムスター(♂,8週齢)の気管内に週1回、計16回投与した。各群最終投与日の翌日に炭酸ガスにより安楽死させ、肺毒性について比較検討した。 【結果および考察】投与期間中の体重変化に関し、ITO群は対照群と同様の変化を示したが、InP群では12回投与直前に1匹死亡し、12回投与後より急激に体重増加の抑制が認められた。肺の相対重量は、対照群と比べてITO群で2.6倍、InP群で4.7倍に有意に増加し、InP群とITO群との間でも有意な差が認められた。肺の病理学的変化に関して、ITO群、InP群で肺の炎症性変化を主体とする病変が観察された。InP群では肺胞内および肺胞中隔への炎症細胞の浸潤、肺胞壁の著しい肥厚、肺胞腔内へのマクロファージの壊死片を含む滲出液の貯留,cholesterol cleftsが観察された。ITO群では、InP群と同様の病変が観察されたが、ITO群では病変の程度はInP群に比べて軽度であった。ITOおよびInP粒子の反復経気道曝露により、肺障害が引き起されることが明らかになったが、肺病変の程度はInP群に比べてITO群で軽度であった。ITOおよびInPの1回投与量は粒子量やIn量としてはほぼ同じであるので、病変発現の程度の差は各粒子の生体内での溶解性による違いや各構成元素であるリンやスズの影響が考えられた。
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