本研究は、ダイオキシン類に曝露された可能性のある集団の追跡調査によって、ダイオキシン類の健康影響、特に癌死亡リスクの大きさを明らかにすることを目的としたものである。一部の国有林では、不純物としてダイオキシン類を含有する除草剤が1967年から1970年まで使用されていたが、この間に近畿地方と中国地方の2府14県の常勤職員として勤務経験のあった林業労働者2091名を、複数の退職者名簿と調査協力の得られた就労経験者等からの情報に基づき対象コホートとして設定した。協力者への面接、法務省の認容を得た死亡診断書記載事項証明により、追跡対象者の生死、就労時期、職種、死亡者はその原死因等を明らかにした。その結果、男性1631人のうち385人が死亡しており、原死因の主要内訳は、癌によるものが149人と最も多く、次いで心疾患が46人、脳血管障害が39人で、国勢調査年の全国の死亡率を基準として求めたSMRは、全死亡が0.8(95%CI:0.73-.90)、全がんが0.86(0.73-1.01)、心疾患が0.64(0.47-0.86)、脳血管障害が0.59(0.42-0.81)であった。女性の死亡数は順に70、32、7、8であり、SMRは0.69(0.53-0.87)、0.96(0.66-1.36)、0.40(0.20-0.93)、0.47(0.20-0.93)であった。心疾患・脳血管障害の結果は、healthy work effectの存在を強く示唆する。また。ダイオキシン曝露労働者でしばしば観察されている全癌のSMRは有意な上昇を示さず、部位別癌の死亡状況についても特記すべき結果は認められなかった。しかし、今回のコホートの死亡割合は全体で22%にとどまつていたことから、確定的な結論を得るにはさらに追跡を要すると考える。
|