希土類元素化合物は、先端技術産業分野で用いられているが、その生体影響は不明の点が多いことから、実験動物を用いて生殖能と骨代謝に及ぼす影響を検討した。雄性ICR系マウス(5週齢)に希土類元素化合物としてTbおよびYbの塩化物を尾静脈内投与したところ、投与元素は肝に最も多く分布するが、腎、脾、膵、肺、心、胸腺、顎下腺、脳、骨、筋肉および生殖器にも分布した。投与6日目において臓器中投与元素濃度は概ね投与量に依存して増加したが、精巣濃度は一部で逆転がみられた。すなわち、25mg元素/kg投与より10mg元素/kg投与の方が分布濃度が高かった。投与量1mg/kgでは10mg/kgより1/2から1/3に低く約なったが投与量割合から考えると、投与量が少ないほど分布しやすい傾向が伺われた。TbとYbは同様の傾向を示したが分布濃度はYbの方が高い傾向を示した。精巣重量や精巣状態中の精子濃度には特に変化は見られず、今後、生殖能への影響について他のパラメータを検討する必要がある。大腿骨中濃度も投与量に依存したが、投与量に対する分布割合は投与量が少ないほど多くなる傾向がみられた。骨には投与量の数〜10%程度が分布すると推定されること、他の臓器に比べて代謝速度が遅いと思われることから、骨代謝へ及ぼす影響を検討するために、骨密度測定、骨のハイドロキシアパタイトの構造変化の検討を始めている。希土類元素投与に対する曝露状況の指標として、尿中および骨中希土類元素が有用ではないかと考え、キレート樹脂濃縮法と高周波プラズマ質量分析方を組み合わせた高感度定量法を確立し、希土類元素投与を行なっていないマウスの希土類元素濃度を測定した。体内で最も高濃度に希土類元素が蓄積していたのは骨であり、数〜20ng/g dry程度の名種希土類元素が検出された。通常のマウス飼料には数〜80ng/g程度の希土類元素が検出されたことから、主たる供給源は食餌と考えられた。しかし飼料中の希土類元素含有パターンと、骨中のパターンは異なっており、希土類元素の種類により、骨への取り込みが異なることが示唆された。
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