本研究の目的は、溶接作業者における血清サイトカイン量の個体間、個体内の変動と溶接ヒュームによって呼吸器に生じる反応の個人差との関連を、肺磁界測定(MPG)による累積曝露量を調整した上で評価することである。研究対象者は、主に溶接作業に従事する作業者約150名からなるコホートから抽出された。インフォームドコンセントを得て、血清中インターロイキン4、6、8(各IL4、IL6、IL8)及びインターフェロンγ(IFNγ)を、佐藤らの高感度化学発光ELISA法を用いて、2000年、2001年に測定した。さらに8-ヒドロキシデオキシグアノシン、コチニンなど血液、尿中のいくつかの他のバイオマーカーも測定した。またMPGによるヒューム累積曝露量と肺機能について、ベースライン測定から5年後の変化を評価した。 全てのサイトカインは広い範囲に分布し、中等度から高度の正方向への歪みを示した。しかし同時に各サイトカインにおいて2000年の1回目の測定と2001年の2回目の測定は有意な正の相関を示した。これらの結果は、断面的な個人差から推測されるほど実際の個体内変動は大きいものではないことを示唆している。そして各個人がそれぞれ固有の正常水準を有すると仮定できる可能性を示している。もう一つの興味深い点はIL4とIL8の間の有意な正の相関(Spearmanの順位相関係数=0.62)で、溶接ヒュームの呼吸器影響上共通の側面を反映することを示すものかも知れない。MPG測定では、対象者の肺の被磁化性は5年間の追跡で顕著な低下を示した。平均でヒューム沈着量の66%が減少したものと推定された。したがって作業環境の十分な管理は、溶接ヒューム曝露の減少とともに、すでに肺に沈着した粒子の排除にも有効である。血清サイトカイン量と累積曝露量、肺機能の変動との関連について、現在詳細に検討中である。
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