超高磁場磁気共鳴装置を用いて、生きたアクリルアミド中毒ラット(50mg/kg/日、8日腹腔内投与)脳について検討し、脳室、脳槽の拡大、大脳皮質の厚さの減少などを認めた。これにより、上記投与法によるアクリルアミド中毒ラットは、形態学的にも「脳症」モデルであることを確認した。これに先立ち、アクリルアミドと対照的に髄鞘を障害するヘキサクロロフェン投与ラットについて検討し、超高磁場磁気共鳴による脳の形態学的および"apparent diffusion coefficient"解析が非常に有効な方法であることを明らかにした。一方、アクリルアミドは、前初期遺伝子の1つであるc-Fosを脳内で発現させるという報告がある。これに関連して、強力なc-Fos誘導化学物質のペンチレンテトラゾールを投与して、マウス脳内のc-fos mRNAを測定、その増加とL-カルニチンによる抑制を明らかにした。次に、細胞レベルでのアクリルアミドなどの作用を検討するために、いくつかの細胞系を用いて、細胞毒性の評価と情報伝達系、特にMAPK(mitogen activated protein kinase)系に及ぼす影響を検討し、ある種の化学物質の毒性発現とMAPK活性化における細胞内Ca^<2+>の重要性などを明らかにした。以上にもとづき、ヒト神経芽細胞株SH-SY5Yを用いてアクリルアミド暴露の神経細胞への影響を検討した。その結果、アクリルアミド暴露48-72時間後、量依存的な有意な細胞生存率の低下を認めた。c-fos遺伝子の発現量には有意な増加を認めなかったが、c-jun遺伝子発現量には250、500μM暴露において有意な増加(それぞれ173.3±33.9%、250.3±26.0%(Mean±S.D))を認めた。しかし、活性化(リン酸化)されたERK、JNK、p38MAPK蛋白量、総(リン酸化+非リン酸化)MAPK蛋白量に変化は認めなかった。
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