研究概要 |
本年度は、まず生活環境中の砒素の生体影響が懸念される場合として海産物中の砒素を取り上げ、魚貝類や海藻類などの多食による砒素暴露とその生体影響の解明を試みた。今回は主に海産物を多食する人々の生体試料中砒素濃度について検討した。 調査対象の選定:岩手県内沿岸部で主に養殖漁業に従事する成人で同意を得られた人々を対象に、1日尿と頭髪を採取し、あわせて蔭膳方式による食事調査を計画した。このうち、県南部の沿岸地域では調査が開始されており、他方県北部の地域は交渉継続中で、次年度にまたがり研究が続行される。調査項目:主要項目のヒ素については従来の定量法である超低温捕集-還元気化-原子吸光光度法で、無機砒素(iAs),モノメチル化砒素(MA),ジメチル化砒素(DMA),トリメチル化砒素(TMA)の分別測定を行った。 成果および次年度での展開:対象群の尿中からiAs、MA、DMA、TMAの4形態の砒素が検出され、DMA、TMA濃度が高かったため、総砒素濃度(Total)は既存の都市部住民の値に比較して極めて高値であった。また対象群の1日の尿中砒素排泄量は女性に比べ男性で多く、性差があり、DMAとTotalには有意の差(p<0.05)が認められた。頭髪からはiAs、DMAの2形態の砒素が検出された。TMAは尿中に大量に排泄されているものの頭髪中には不検出で、魚貝類の多食者においても頭髪中砒素の化学形態はこれまでの知見と一致し、iAs、DMA以外の形態は認められなかった。一方、対象群の頭髪中砒素濃度は都市部住民の値に比べて明らかに高く、とくに男性では有意の差を認めた(iAs:p<0.05,DMA:p<0.01,Total:p<0.01)。海産物とくに海藻中に含有されているヒ素が関与する裏付けはこの調査だけからは明確ではないので、同様の生活環境を持つ地域での調査を行って関連を明らかにするとともに、尿中8-OhdGによるDNA損傷物質の測定に着手したい。
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