今年度は、2000ppmのm-yleneを一日4時間、連続5日間曝露するプロトコルを用いて、ラットに曝露実験を行った。脳内のm-xyleneは不均一に分布していた。また、ラットの尿中のm-xylene代謝産物は、曝露後著明に増加していた。また、曝露直後に、凍結脳切片を試料として、三種類の放射性リガンドを用いたオートラジオグラフィー法を用いた画像解析を行ない、GABA_A受容体の変化を脳内の各部位について詳細に検討した。まず、[^<35>S]t-butylbicyc1ophosphrothionateを用いた実験では、小脳の顆粒層において、有意なリガンド結合量の増加が見られた。次に、[^3H]flunitrazepamを用いた実験では、どの部位でも有意差がなかった。[^3H]Ro15-4513を用いた実験では、大脳皮質、海馬、下丘、小脳の分子層で有意なリガンド結合量の増加が見られた。これらから、ベンゾジアゼピン結合部位とCl-チャンネルの共役に変化があることが示唆された。特に[^3H]Ro15-4513を用いた実験により、GABA_A受容体のうちα_6サブユニットを含む受容体に特異的な変化が見られ、アルコールの慢性投与による影響と類似した結果が得られた。これは有機溶剤間の作用の比較研究を行うことにより、新たな知見が得られる可能性を示す注目すべきデータである。以上を総合すると、m-xylene曝露により、脳内GABA_A受容体は、薬理学的特性に変化が見られること、その変化はリガンド、部位ともに特異性が見られることから、受容体を構成する分子レベルの変化であること考えられる。今後は、種々の曝露条件を試みることにより尿中代謝産物の量と受容体における変化の量的関係の追求をするとともに、更に詳しく分子レベルの変化(遺伝子発現等)を検討することにしている。
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