研究概要 |
前年度はm-キシレンン曝露による脳への影響を、GABA_A受容体の変化を指標として、画像解析によって観察した。その結果、m-キシレン曝露後に、小脳などでGABA_A受容体の有意な変化が観察された。そこで今年度は、m-キシレン曝露時の脳内m-キシレン濃度および尿中m-メチル馬尿酸濃度の経時的変化を観察した。実験動物には、6週令の雄性Sprague-Dawleyラットを用いた。曝露条件は以下の通りである:曝露濃度は2000ppm; a.対照群,b.2時間曝露,c.4時間曝露,d.4時間曝露+1時間回復群,e.4時間曝露+2時間回復群 各群において脳内のm-キシレン濃度(Head space GC法)と尿中m-メチル馬尿酸濃度(HPLC法)を測定した。大脳皮質内のm-キシレン濃度は、曝露時間の経過とともに増加し、曝露後の回復期では、脳内濃度が急速に減少する様子が観察された。また、尿中m-メチル馬尿酸濃度の変化は、概ね、脳内濃度と並行して増加することが示唆された。尿中m-メチル馬尿酸濃度は曝露終了後一時間では減少傾向であった。しかし、脳内のm-キシレン濃度ほど急速には減少せず、むしろm-キシレンの体内再分布と代謝の持続によってm-メチル馬尿酸が持続的に排泄されることが示唆された。 今後は、曝露中の脳内m-キシレン濃度と尿中m-メチル馬尿酸濃度の関連性についてより低濃度でも詳細に検討し、尿中m-メチル馬尿酸濃度をm-キシレンの曝露指標とし、脳内GABA_A受容体の変化を影響指標とするm-キシレンの生物学的影響モニタリング法を開発したい。また、低濃度曝露実験をするためには有機溶剤濃度をより微量の生体組織で感度・精度よく測定する方法が是非必要であり、今後マイクロ固相抽出法等を用いて実現することにしている。
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