研究概要 |
今回のシミュレーションではその基礎となる数理モデルにKermack-McKendrick modelを採用した。このモデルは2元の微分方程式により記述されるものである。このモデルで感染性(infectivity)の大きさを表わすパラメーター(λ)を1957-'58のいわゆる「アジアかぜ」と1968-'69のいわゆる「香港かぜ」の記録から推定した。ただし、発病者総数の詳しい記録は得られなかったので、これらの流行期において死因がインフルエンザとされる死亡者の数の時間変化をもとにλを推定し、実際の流行での記録と比較してシミュレーションの妥当性を検討し、シミュレーションを行った。 シミュレーションでは上記λが最も重要であるが、今回は上記2つの流行データから推定されたλと、ヨーロッパ第7回インフルエンザ会議(1993)での勧告で想定されたインフルエンザ汎流行での最小発病率である25%をもたらすλを用いた。均一な集団構造を仮定して新型インフルエンザの流行をシミュレーションしたところ、冬季に「アジアかぜ」級の新型インフルエンザが流行すれば、4700万人以上の発病者が発生し、8000人程度が死亡すると予測された。また、1日あたりの新規発病者発生数は最大約90万人と推定された。人口の25%の発病があった場合、1日あたりの新規発病者発生数は最大約40万人、死亡者の合計は4000人程度と推定された。新型インフルエンザの流行は医療機関のみならず、社会にも甚大なインパクトを与えると予想される。数式モデルに用いるパラメーターの推定やモデルの適用方法を改善し,空間構造や年齢等の集団内構造を考慮したシミュレーションを行う事が今後の課題である。
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