研究概要 |
強い感染性を持った新型インフルエンザが生まれ、汎流行が生ずる可能性は常に存在する。日本では1957〜58年にかけて新型インフルエンザによる「アジアかぜ」が夏の第一波と冬の第二波に分かれて流行した。本研究では「アジアかぜ」と同等の感染力を持った新型インフルエンザが冬期に日本に侵入した場合を予測した。伝染病流行の数理モデルにはKermack-McKendrick modelを用いた。感染力(λ)の推定に用いたデータは、「伝染病および食中毒統計年報」に記載された報告患者数と、人口動態統計からインフルエンザが原因とされた死亡数である。これらの統計値が時間的変化が感染者数の時間的変化を反映していると仮定し、その時間的変化に最も適合した流行をもたらすλを最尤法により推定した。 第二波におけるλの推定は2つのモデルで行った。「分離モデル」では、第二波は既感染者が存在しない環境で流行すると仮定している。「混合モデル」では、第一波で新型インフルエンザに免疫を獲得した者のいる場所に第二波が再度流行すると想定した。 第二波流行終了時の累積発病割合は「分離モデル」では報告患者数データ、死亡数データからそれぞれ日本人口の59%,44%、「混合モデル」では同じくそれぞれ49%,39%と推定された。観察値に最も近かったのは「混合モデル」を報告患者数にあてはめた場合であった。インフルエンザ流行期に一山型の流行を生じた場合を「混合モデル」を用いて予測すると、累積発病割合は64%から75%で、流行のピーク時には1週間で人口の23%から34%が発病する極めて大規模な流行が起こると推定された。流行の速度もウィルスの侵入からピークに達するまで8〜10週間しか要しない程速やかであると予測された。汎流行への対策を考える場合に、このような急速で大規模な流行の可能性も排除せずに検討すべきであろう。
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