研究概要 |
本研究では、社会文化的環境が異なると考えられる沖縄県と九州本土の思春期を対象に、抑うつ症状に関する疫学的調査を実施することにより、思春期集団の抑うつ症状の出現に地域差がみられるか否かを確認し、その格差を規定する心理社会的要因および文化的要因を明らかにすることを目的とした。 平成12年度は沖縄県および佐賀県全域の全日制公立高等学校の生徒5,737名を対象に、平成13年度は沖縄県および佐賀県全域の公立中学校の生徒4,177名を対象に質問紙調査を実施し分析を行った。 本研究の結論として、沖縄県と佐賀県の思春期におけるいくつかの心理社会的要因のレベルに地域差が示されたものの、抑うつ症状のレベルには地域差が認められなかった。また、両県の思春期における抑うつ症状と心理社会的要因との関連性にはほぼ同様の関連パターンが示された。したがって、本研究で設定した両県の思春期の抑うつ症状に地域差がみられ、その格差には地域特有の心理社会的要因が影響しているという仮説は支持されなかった。また、生活ストレスやソーシャルサポートなどの心理社会的要因は、地域や文化に関係なく思春期の抑うつ症状に影響を及ぼす重要な一般的共通要因とみなすことができる。さらに、本研究では沖縄県の思春期にとって地域共同体における社会関係は地域文化として重要な役割を果たし、それが彼らの抑うつ症状にも彫響を及ぼしていると仮定したが、地域行事参加と抑うつとの関連の強さが弱く県差がみられなかったことからこの仮説を支持できなかった。 抑うつ症状と心理社会的要因の関連パターンは両県とも共通していたが、関連性の強さにいくつかの差がみられ、高校生の場合、沖縄県のセルフエスティームと佐賀県の教師ストレスが、中学生の場合、沖縄県の家族ストレス、住居環境、学校満足がより強く影響していた。
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