本研究では、健常な正常妊産婦を対象として、妊娠期間中ならびに分娩後1年間に及ぶ期間中の血圧変動、骨密度変動と、妊娠中および出産後の栄養摂取状況ならびにアンギオテンシノーゲン遺伝子多型(T174M多型)との相互関連性を分析することを主目的として、東京都内に存在する某産婦人科医院の受診妊産婦約100名を対象とした疫学調査をスタートさせた。現在までに、左記対象者のうちの約70名については、十分にインフォームド・コンセントを獲得した後、妊娠診断時、妊娠36週、分娩後5日、分娩後1カ月の各時期における血圧、体重に加えて、超音波法による踵骨部骨密度、血清エストラジオール(E2)、プロラクチン(PRL)、尿中タイプIコラーゲン架橋N-テロペプタイド(NTx)の測定値を入手しえている。さらに妊娠36週の時点では、総計110種以上の食品の摂取頻度と1回あたりの摂取量を回答させる半定量式食物摂取頻度調査票(SQFFQ)に基づく栄養調査を実施した。また以上の対象者につき、PCR法によるアンギオテンシノーゲン遺伝子多型の分析も現在進めつつある。これまでに判明している事柄は、アンギオテンシノーゲンT174M遺伝子多型において、Mアリル保有者は、TT型の者に比し、食塩負荷に対する血圧の反応性が大きいことが妊産婦においても認められること、妊娠36週目と分娩後1カ月目を比較した場合、後者においてNTxは明らかに低下している場合が多く、この場合同時に産褥期における骨密度上昇が認められること、出産後E2の低下が著しい者では骨密度は持続的に低レベルを示すこと、などである。今後、分娩後6カ月、1年の時点においても同様の情報を入手するとともに、栄養素摂取量を含めた広範な分析を実施する予定である。
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